眠りの庭 探偵奇談2
「そーいやさ、知ってる?」
部活が終わり、更衣室で着替えていると三年生の先輩たちが話しているのが聞こえてくる。郁は制服のシャツに腕を通しながら、何となく耳をすませた。
「実習棟の2階の男子トイレの鏡、割られてたんだって」
「えっまじで?」
「うん。7組の荒木らが呼び出し食らってたけど、冤罪だって騒いでた」
「普段から素行悪いからじゃん」
「それがさ、生物室横の女子トイレの鏡も割られてたらしくて」
「なんだそりゃ。暇なやつがいるもんだねー」
へえ、そんな騒ぎがあったのか。実習棟は普通科の郁には殆ど縁のない場所だった。
「郁―、かえろー」
「んー。お腹減ったね」
「マックよってこ~」
いつものように緊張感のない部活後。
「おーい須丸―自転車こぎながら寝るなよー」
「あっす」
寝不足気味だという瑞が、先輩たちに笑われている。このごく普通の光景が、この後の大きな事件に結びつくなど、郁も瑞も気づいていなかった。
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作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白