小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

眠りの庭 探偵奇談2

INDEX|33ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

満ちるは光



夢を見ている。瞼をすかして、やわらかな光を感じる。温かい風が頬をなでるような。

「…あれ?」

目を覚ますと、美しい草むらに倒れていた。緑の山野。鳥の鳴き声、向こうの沢からは水音が聞こえてくる。ああ、春なんだなと瑞は思う。春の美しい山。見たことのない風景。温かく、優しい。


「すまんかったの」


声をかけられ振り返ると、白髪の少女が立っていた。ああ、狐だ。不思議な声をした、幾度となく夢で聴いた声。

「…ここはどこなんだ」
「われのいた山だ」

今はもうない光景。裏山にまだ、人間の手が入っていなかった頃の。

「取り戻せないことを、悔いているわけではない」

少女は続ける。草の上に手をつく瑞の指先に、テントウムシがとまった。


「また失うのかとおもうと、恐ろしかったのだ」


ああ、神様の使いでも、そんなふうに喪失を恐れるのだな。人間と同じに。急速に、この不可思議な魂に親近感を覚える。怖かったのか。恐ろしかったのか。温かなひとを、失うことが。

二人の間を柔らかな風が流れていく。過去から吹く風。かつてあった愛おしい場所に吹く風。

「すまんかった」

再び詫びられる。なんだか居心地が悪くなる瑞だ。

「俺も怒鳴って悪かったよ…」

そう言うと、少女は目を細めて笑った。