眠りの庭 探偵奇談2
「もとの形、あるべき形に戻すんだ。変容したのは、人間の身勝手な理由のせいなんだから、それを果たす責任が、この学校でお狐さんに庇護されてきた者にはある」
あるべき形に戻す。それは瑞にしかできないこと。彼が与えられえた、あるいは課された能力。それをまた、郁は目の当たりにする。
「十一時を過ぎた。行きます」
瑞が立ち上がり、郁もそれに続いた。
「…わたしも同行させてください」
少し迷ったあとで、浅田もそう言ってついてきた。長年この学校を見守り、あの祠を守ってきた浅田には、ことの顛末が気がかりに違いない。瑞が快諾し、三人で並んで夜の中に出た。むっとした湿気。すべての電気の落ちている学校の敷地内は暗く、目下には宝石箱のように美しい街の光が見える。空には夏の星座が輝いており、辺りは虫の声が溢れている。
(きれえ、星)
普段、あまり夜空など見上げないが、こうしてみると美しい。星ってアニメみたいに、本当にチカチカするんだ、とそんなことを郁は思った。
「わっ、ごめん」
上を見ながら歩いていた郁は、突然立ち止まった瑞の背中に追突した。ふわりと甘い匂い。
「須丸くん?どうしたの?」
微動だにしない彼の背中。
「なんかむっちゃ怒ってる」
「え?」
ずん、と振動が伝わり、足がふわりと地面を離れた。あれっと思う間もなく地面に倒れる。地震?でも一瞬だった。痛い。何が起こったの?起き上がってあたりを見渡す。中庭が見えた。倒れたままの重機、規制ロープ。隣では、地面に踏ん張ったままの姿勢で瑞が中庭を睨んでいた。
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白