眠りの庭 探偵奇談2
夜の学校。当直で用務員室に泊まるという浅田に事情を話し、郁は瑞とともに他の職員が帰るのを待っていた。
「けが人が出るなんて、本位ではなかったと思うんです」
浅田が寂しそうに言う。開け放たれた窓の外は菫色の夕闇が迫っている。生ぬるい風に吹かれながら、郁はその言葉に耳を傾けた。
「お狐さんは、いつも生徒たちをにこにこしながら見守っていて下さった。きみたちの先輩にけがをさせる気なんて…」
浅田も瑞も見たという白髪の少女。眠れる魂の安らぎの土地を荒らされ怒っているという。昼間の事故は、たまたま伊吹が巻き込まれただけで、少女は生徒に敵意はないと、浅田は言うのだ。
「それは俺も同感です。まあぶっちゃけ、先輩に怪我させたのは偶然でも故意でも絶対許せないけど…」
後半で顔が怖くなる瑞だった。
「浅田さんがあそこを手入れして、お狐さんたちが心やすくいられるよう手をつくしてくれていた。そして彼らはそこに癒しと安らぎを感じ眠りについていた。だからこそ、あそこは生徒たちにとっても居心地がよかったんだ。芝生なんかなくても、綺麗な花壇なんてなくても」
「そうですね…そうなんです。守られた場所なんです。冥福を祈って清められた、力のある神様の使いが眠る場所なんだから」
郁もあの中庭を利用することがある。いつも日が当たっていて、生徒らが思い思いに過ごしていて、なんとなく落ち着く空間なのだ。神様の使い、白い狐が守る清められた空間。
「でももう限界です。工事を止めないと、次はもっと大きな事故が起きるかもしれない。お狐さん自身にも、もう止められなくなるかもしれない」
険しい顔つきの瑞に、郁の不安が大きくなる。思わず口をはさんだ。
「今日のことで、学校もしばらく工事は中止するかもしれないよね?それで解決しないのかな」
「工事が中止になったとしても、今回の件で本来の形を歪めてしまってるお狐さんが、もう災いを起こさなくなるという保証がない。もとの形に戻してやる必要がある」
生徒たちには祟りなんて言われてるだろ、と瑞に言われる。
守り神が祟りをもたらす存在へ。
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白