眠りの庭 探偵奇談2
現場には当時誰もいなかった。封鎖してある中庭に立ち入った者もおらず、午前中に引き上げた工事関係者によると、重機の安全管理にも問題はなく、それは現場をみた教師らも同意している。突風が吹いたとか地震が観測された事実もない。人為的な原因もなく、自然現象でもない。
「祠の祟りだっていう噂、広まってるんだって」
「……」
「さっき浅田さんが話してたアレだよね。生徒会の子から話が広まってるみたいで…」
祠の由来は、生徒たちの大半が知らないだろう。しかし祠を壊そうとしたら祟りが起きた、というのは非常にわかりやすい怪談話だと思う。連日続く不可思議な破壊事件と併せ、今回のことで怪談話には信憑性が付与されている。生徒たちは恐れ、この不可解な現象を祠の祟りとすることで納得しようとしているのだろう。
「なんとかしなきゃ…もっと大きな被害が出る前に」
「そうだな。今夜、あの子に会いに行く…んだけど」
「え?」
「来てくれるか、一之瀬も一緒に」
唐突に問われ、郁は驚く。
「えっ?」
「冷静にいれるかわかんない」
「どういう意味?」
「狐。住処を追われたことや、安息の地を荒らされることには同情するよ。でも、先輩怪我したんだ。ちょっと感情的になってる、俺。さっきも、ちょっとやばかったろ」
「…うん」
「だから一之瀬、そばで冷静にいてほしいんだ。こんなとき、部活で鍛えた平常心なんて、ひとつの役にもたたないな」
彼から頼りにされる日が来るなんて。参っているというのか、すごく疲れた表情の瑞に、郁は何度もうなずいた。
「あ、あたしにできることならまかしてよ!」
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白