眠りの庭 探偵奇談2
「あ、須丸くん…」
瑞が戻ってきた。行き場のない静かな怒りをこらえている顔は蒼白だった。近寄りがたいというか、雰囲気が尋常でない。乱暴に椅子をひっぱり座る彼に、郁はかけよった。
「神末先輩は?!」
「…意識もしっかりしてるし、縫うほどの傷でもないって。でも頭だし、検査した方がいいから先生と一緒に病院行った」
「そっか…」
とりあえず安心していいのだろう。郁はほっとする。しかし瑞は苛立ったように髪をかきまぜている。大抵のことには動じない彼の様子が、いつもと違う。焦っているし、苛立っている。せわしなくスマホを操作しているので伊吹から連絡でも来たのか尋ねると、来ないと吐き捨てるように言うのだった。
「送ってんだけど既読になんない。ちゃんと連絡してって言ったのに」
「検査中なんだよ。ちょっと落ち着きなって、大丈夫だから。ね?」
郁の言葉に、彼はぴたりと動きを止めた。そしてスマホを机に放りだすと、苛立った表情を一変させた。
「俺のせいだ…」
「え?」
「もっと早くに対処してりゃよかったんだ…」
迷子の子どものような表情になって、瑞は項垂れた。
「大丈夫だって。傷だって大したことなかったんでしょ?」
「うん…」
「落ちつこ?絶対大丈夫だって。絶対」
そうだな、とようやく瑞が身体の緊張を解いた。とがっていた雰囲気が柔らかくなり、郁はほっと胸をなでおろした。
「目撃証言聞いた?あのデッカイショベルカー、突然くるんってひっくり返ったんだって」
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白