眠りの庭 探偵奇談2
「中庭ってさ、いま工事してるんじゃん」
「ええ。芝生を敷くんです」
「なんか生徒から要望でもあったの?きれいにしろとかって」
畳みかけるように尋ねる瑞に、生徒会の彼女は困惑気味だ。郁もその勢いに見守ることしかできない。
「学校側が決めたことです。生徒からは、反対の声が多かったくらいだって、会長が言ってました」
「あ、そうなの?」
「あそこ、過ごしやすいっていう生徒が多いんです」
「うんうん、みんな思い思いに過ごしてるのを見たことがあるよ。ギター弾いたり、野球部が素振りしてたり」
「はい、きちんと整備されているわけじゃないけど、憩いの場だったんです。芝生にすると、季節によってはしばらく立ち入れなくなるし、今までみたいに部活の自主練できなくなるからって、反対してた生徒が多いんですって」
初耳だ。それを学校側が美しい景観のためにと工事をいれたのだという。
「ごめんね、ありがとう」
「いえ」
女子生徒が去ったあとで、瑞が腕を組んで考え込んだ。
「須丸くん?もしかして、またなんか調べてる?最近窓ガラスが割れたりしてるのと関係あり?」
「あり。浅田さんのとこ、行ってみる」
「わ、わたしもついて行っていい?」
いいけどどうして、と不思議そうな表情を浮かべる瑞。
「一之瀬、怖いの苦手だろ?」
「やっぱりそういう系の話なんだね。でも、ちょっと興味あるって言ったら、怒る?」
怒んないけど、と言って小さく笑う瑞の背中を郁は追う。
彼の行くさきにある、日常から離れた世界の扉。そこに立ちいることでしか見られない景色よりも、瑞が心を尽くすその優しさの源流に興味があるから。
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作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白