眠りの庭 探偵奇談2
託すは祈り
起きろ、と誰かが呼んでいる。暗闇の中から声がする。眠いのに、メンドクサイな、と思っていると、起きろ、とまた聞こえた。老人のような若者のような、男にも女にも聞こえるような声。
(えーと…これ誰だ…?)
瑞は夢うつつの中で思考を巡らせる。
この声、知っている。ここ数日、ずっとこいつに話しかけられているのだ。夢の中で。
起きろ。
そして止めろ。
お前にはこの声が聞こえているはずだろう。
お前にしかもう頼れんのだ。
(なんのことだよ…これって夢だろ。なんで俺、夢の中で説教されてるんだよ)
明日も朝練があるんだから寝かせてほしい。もうすぐ大事な練習試合。うまくいけば、団体戦の選抜メンバーに選ばれるかもしれないんだから。
「うるさくてたまらんのだ!なんとかせんか!!」
「うわッ!!」
怒鳴り声に跳び起きた。瑞は心臓をおさえる。なんだ、いまの夢は。耳元でおもいっきり怒鳴られた。月明かりの差し込む自室。カーテンが夏夜の風に吹かれている。
(だめだ、これはいよいよおかしい…)
日中はやたらイライラするし眠いし、夢の中では説教されるし、この頃やっぱりおかしい。
夜ごと夢に現れ、自分をなじる声。昼間の苛立ち。
(…やっぱアレが原因?)
瑞には一つだけ、この異常事態の原因に心当たりがある。ベッドから起き上がり、さっとパーカーだけ羽織って自転車にまたがる。スマホだけポケットに突っ込んで、瑞は夜の中へ飛び出した。
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作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白