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そして河童は川へ還らず

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 三郎はどうにもよねが心配で仕方なかった。あの純粋な娘が河原に立ち、危険に晒されているかと思うと、居ても立ってもいられなかった。
「やっぱり、おら、先に行くだ!」
 新之助の制止を振り切って、三郎は下流目指して泳ぎ始めた。
「おい、馬鹿、三郎!」
 その新之助の声も、三郎には届かなかった。

 やはり、よねは河原に立っていた。
「よねーっ、危ねえ、早く逃げっど!」
 吾作がよねの腕を掴んだ。だが、よねはそれを振り払う。川は濁流となり轟々と凄まじい音を立てて流れている。
「嫌だ。三郎さと、ここで会う約束さしてるだ」
 よねはそう言って聞かなかった。
「駄目だ。来るだ!」
吾作が強引によねの腕を掴み、引っ張る。だが、よねはまるで駄々っ子のように寝転がり、吾作に反発した。
「聞き分けのねえことを言うでねえ! ここは半刻も持たんぞ」
 既に上流のブッツケは濁流の勢いで、崩れかけている。この河原が水に浸かるのも時間の問題だった。
「よし、四半刻待ってやる。それまでに三郎とやらが来なかったら、諦めるだぞ」
 そう言って、吾作は家の補修に向かった。強い風で家は傾きかけていた。
 よねは三郎を待った。ひたすら待った。その間にも雨風は更に勢いを増していた。
 すると川縁に立っていたよねの足元が急に崩れた。よねは濁流に呑み込まれる。
「ああーっ、おとう!」
 その声を聞きつけて吾作とさきが飛んできた。だが、そこによねの姿はなかったのである。
「よねーっ、よねーっ!」
 吾作とさきは必死になってよねの名を呼んだ。だが、そこには轟々と濁流の音が聞こえるだけだ。
「ううっ、やっぱりさっき、無理にでも連れていけば……」
 力なく、吾作とさきがその場にへたり込んだ。横殴りの雨が容赦なく二人を打ちつけた。

 その少し下流。濁流が巻き返しになっている瀞場があった。そこに魚たちは避難していた。だが、魚は慌てて散った。その瀞場によねが流されてきたのである。そのよねに続く二つの影があった。三郎と新之助である。
 三郎はよねを抱きかかえると、水面目指して、上っていく。そして、岸へとよねを揚げた。
「よね、よねーっ!」
 よねは水をたっぷりと飲んでいたが、まだ息はしている。三郎はよねの腹を押して、水を吐き出させた。
「よねーっ、しっかりしろ!」
「うーん……、三郎……」
「よね、よねーっ!」