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そして河童は川へ還らず

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「あれ、よねや、そのヤマメどうしただえ?」
「三郎に貰っただ」
 よねは屈託のない笑顔で答えた。
「おめえ、また河童に会ったのけ?」
「あはははは……」
「馬鹿のおめえにはわかるまいが、悪い虫だけは寄せ付けさせねえだぞ。まして河童なぞ、聞くだけでも恐ろしいこんで……」
 さきは困ったような顔をして、よねの腕を引っ張った。

 季節は流れ、秋になっていた。三郎とよねの密会は続いていたが、稲刈りの時期に、そうそうよねの見張り役をしてもられぬさきであった。その頃には、よねはまた一人で家の中の留守番をすることになっていた。
 よねは家でジッとなどしていない。早速、河原へと躍り出た。すると、瀬の中に河童の影が見えた。
「三郎!」
 その声は川の中の三郎にも届いたのだろう。三郎は瀬から身を乗り出した。
「よね!」
 その手にはやはり、枝に刺さったヤマメが六匹握られている。
「今日も獲ってきただ」
「三郎、ありがとう。おら、三郎だけが友達だ」
「人間の友達はいねえのけ?」
「みんな、おらのこと、相手にはしてくれねえだ。でもいいだ。おらには三郎がおる。あはははは」
 三郎はそんなよねの瞳を見つめる。三郎も笑った。三郎にとってそれは、ささやかな幸福だったのである。
 三郎には仲間がいる。それは兄貴分の五徳であり、新之助でもある。だが、よねとのひとときは、彼らといる時とは違う、安堵感をもたらしてくれたのである。よねと会うことにより、何とも言えぬ安らぎを覚える三郎であった。
「そこの淵にハヤ(ウグイ)がおる。一緒に捕まえるけ?」
 三郎は上流のブッツケ(川の流れが岸に当たるところ)を指差した。
「うん。一緒に捕まえるべ」
 三郎はブッツケのほとりに釣竿を置いておいた。その先からは河童の髪で編んだ釣り糸が伸びている。
 三郎は河原を丹念に探した。餌にするバッタである。夏のこの時期、バッタは簡単に見つかる。三郎はバッタを五、六匹捕まえると、そのうちの一匹を針につけた。
「よね、この竿さ、握ってみろ」
 三郎がよねに釣竿を渡す。バッタは苦しそうにもがいていた。よねは釣竿を受け取った。
「あのブッツケの下手の流れが緩やかになったところにハヤが溜まっているだ。だから、上手からそのバッタを流してやるだ」
 よねが竿を振った。糸はなだらかな曲線を描いて、バッタを水の上に落とす。