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そして河童は川へ還らず

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 三郎はよねから百合の花を受け取った。それは美しくも可憐な百合の花だった。この時、三郎はよねの「シリコダマ」を抜かなければならなかった。それが河童に課せられた宿命だったのだ。だが、一転の曇りもないよねの瞳を見ていると、少し気の優しい三郎は、そんな真似はできそうにもないと思った。百合は川上から吹く風で揺れていた。
「おらは河童の三郎っていうだ」
「三郎……。三郎、好き」
 よねがにっこり笑って、そう言った。
「河童のおらが好きだって?」
 三郎はにわかに信じられなかった。人間は河童を恐れ、近づかないものだと思っていたからである。それでも、よねは三郎のことを「好き」と言ってくれた。三郎には嬉しい一言だった。
(この娘は気が触れているかもしれんが、悪い娘じゃない……)
 そんなことを思うと、余計によねの「シリコダマ」を抜く気にはなれない三郎であった。
「じゃあ、またね。おら、明日またここへ来るだ」
 よねは「あはははは」と明るい笑い声を残して、下流の方へ去っていった。
 三郎はそんなよねを呆然と見送った。ついに「シリコダマ」を抜くことはできなかった。

「なに、上流(かみ)へ行っただと?」
 よねの父親の吾作は驚いて言った。ちょうど、夕飯時だった。
「上流は危ねえ。さき、なしてよねを納屋の中さ、入れておかなかっただ」
 吾作は妻のさきを責めるように言った。
「んだども、おらも田圃さ行かねえと人手が足りねえだよ。よねに張り付いとる暇などねえ」
 さきは困惑したような表情で、汁物を掻き込んだ。
「確かによねは気が触れておる。じゃが、儂らの大切な一人娘じゃ。河童にでも襲われたら一大事じゃ」
「おら、河童に会っただよ」
 よねがあっけらかんと言った。
「何だと。じゃあ、河童の噂は本当だっただか」
 吾作が神妙な顔つきになった。さきは「おっとう」と吾作の腕にしがみ付く。
「でも河童さん、何もしなかっただ。優しい河童さん。あはははは」
 よねが笑う。吾作は「うーむ」と唸っている。さきはただオロオロするばかりだ。
「明日はよねを納屋の中へ入れておけ。田圃はおらが一人でやるだ」
 吾作は押し殺すような声で言った。
「んだども、河童さんと明日も会うって約束しただよ」
「駄目だ。河童は人の『シリコダマ』を抜いて殺す、恐ろしい妖怪じゃ」