路上の詩人
乾いた心
時計が狂い始めた。彼は詩が書けなくなった。麗のアパートを出てからである。
女の家に泊まるくらいなら、離婚調停中の妻のところへ戻ればいい。
しかし、麗のあの時の涙が気になっていた。
彼女はどこが気に入ってくれたのだろうかと思った。金はなし、男前ではない。
本当に自分の詩が気に入ったのだろうか?
「私を好きになれば」
あの言葉は自分を立ち直らせるためでもあったと感じた。それは麗の誤解であったが、麗に自分の生き方は解るはずもなかった。
彼は今の生き方に疑問を感じてしまったのである。
詩を書くことよりも人を愛すること。最低の状態のこの自分を認めてくれた、麗の気持ちが嬉しく感じていた。
彼はまだ700万円近く持っていた。これだけあれば麗とのこれからの人生はやっていけると感じた。
そうは思っても麗のアパートを訪ねる勇気はなかった。
12月1日。彼はいつものように西郷さんの近くに段ボールを広げた。
新しい詩はなかったが、以前の物を印刷した。
麗が来てくれることを期待していた。
パトカーが来た。彼は無断使用で追い払われるものと思った。
「女が酔っている。『西郷さんの近くで詩を売っている男を連れてきて』と言っている」
警察官はそう言って彼をパトカーに乗せた。
「別に悪い事はしていませんから、あなたが引き受けて下さるのでしたら、車で送りますよ」
交番に着くとそう言われた。
麗は寝てしまっていた。