路上の詩人
麗のアパート
シャワーを浴び、髭を剃った。
「以前はいい生活してたんだね」
と麗は言った。
彼は家庭の味を思い出してはいけないと感じていた。
「ビール飲むでしょう」
「酒もたばこもやりません」
「何が楽しみなの」
「詩を書くこと」
「変わってる。バカみたい」
「変人です」
「バカって頭が悪いってことじゃないよ」
「はぁ」
「ここに泊ってもかまわないよ」
「帰るつもりです」
「帰るとこあるの」
「どこでも、段ボールありますから」
「バカね~」
麗は小さなテーブルにコンビニで買ってきた弁当を2つ並べた。
焼き芋で少しは空腹は収まっていたが、弁当を見ると食べたくなった。
「食べましょう」
とてもその声が優しかった。
ハンバーグとパスタ。それと缶コーヒー。
「あなたには夢があって羨ましいな」
麗はなぜか上を向きながら言った。
小さな雫が弁当の上に落ちた。
「私はね、ただ生きているだけよ。何となく生きている」
「同じです。ただ何となく詩を書いているんですから」
「詩は自分を見つめ、人に感動を与えるわ」
「こんな下手な詩は駄目です」
「でも私は感動した。そして花嫁になりたいと思った」
「いいですね。好きな人がいるんですから」
「好きな人はあなたよ」
「こんな自分をですか?何も知らないでしょう」
「少しづつ知って行けばいいと思う」
「こんな僕では直ぐに飽きてしまいますよ」
「やり直したいって気持ちになったの」
彼は麗の気持ちが解っていたが、また元の様な家庭を持ちたいとは思わなかった。
「旨かったです」
立ちあがるとドアに向かった。
「どうしても帰るの」
「1と5の日に来て下さい」