雨闇の声 探偵奇談1
もとめるは
夢の中で誰かと話した。思い出せない。すごくいい感じに懐かしい夢だったのに、一瞬で忘れてしまった。
「…うーん」
夢を再生できる道具ができないものかな、とベッドに起き上がって半ば本気で思う瑞だった。幸福な夢だったことは余韻でわかるのに。
(晴れてるのか)
カーテンの向こうが明るい。立ち上がって窓による。開け放った窓の向こうには、梅雨明けを思わせる眩しい青空が広がっている。
「じいちゃん、おはよう」
「おう、おはよう瑞」
相変わらず祖父は早起きだ。今朝もほかほかの朝食がちゃぶ台に並んでいる。感謝して手を合わせながら、瑞は祖父に尋ねた。
「じいちゃん」
「うん?」
「…初めて会うひとを、すごく懐かしく感じるって、どういうことなのかな」
自分でわからない。どうしてそんな感傷を、初対面のあの先輩に抱くのか。
「そりゃ、会ったことがあるってことじゃないのか?忘れてるだけで」
普通に考えればそうなのだが、瑞は納得できないのだ。だって。
「そんな大事だったひとのこと、忘れちゃうもんなのかなあ」
それって矛盾しているじゃないか。そう口を尖らせる瑞に、祖父は優しいまなざしをむける。
「大事だった、ひとなのか」
言われて気づく。無意識に使った言葉だったけど、そう。そうなのだ。
「…うん、」
ああ、そうだ。あのひとは大事なひとだった。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白