雨闇の声 探偵奇談1
音もなく。
影はじわじわと月明かりに溶けて、やがて見えなくなった。淡い光に浮かぶ教室は、いつもの教室だった。
「…行ったのか」
「はい」
瑞が答え、郁の背後から手を伸ばして戸を閉めた。膝の力が抜けて、郁はその場にへたり込む。
「何だったの…」
すべてが衝撃的な体験だった。今になって静かに押し寄せてくる驚嘆。自分はなにかすごい体験をしてしまったのではないか。
「あれは、古い土地に宿った意思が、影を借りて形を成したもの」
だと思うんです。瑞がそう説明する。
「おまえは、見えるんだな」
伊吹が神妙に呟き、それを受けた瑞は少し居心地悪そうに相槌を打ってから、そして答えてくれた。
「俺は昔から…そういうものが見えたし、聞こえた。信じてもらえないかもしれないけど」
「何か…話をしていなかったか?」
「死んだばあちゃんが教えてくれたんです。怖がらなくていい、だけど領域を侵すなって。形は違えど、命の持ち方は違えど、俺らと同じに存在しているんだって。腹たったら怒るし、優しくされたら嬉しいんだ。それを理解してから、怖くなくなりました。そして、意思疎通が可能になった」
意思疎通?
「声が聞こえる?」
「というより、思いが伝わる…うまく言えない」
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白