雨闇の声 探偵奇談1
「一之瀬がここを開けるんだ」
「え…」
柔らかな口調で瑞が続ける。
「招き入れたのは一之瀬なんだから、解き放つことができるのも一之瀬だけだ」
「…」
確かに自分にはその責任があるようで反論できない。怖いけどやるしかないのか。
「責めてるんじゃないんだ」
「え?」
「雨に濡れてかわいそうだって、そんな思いから出た言葉だったんだろ?嬉しかったと思う。だから別に、怖がることないよ」
影は、窓のそばを動かない。
(…嬉しかったの?)
自分の何気ない行動を、この影は、本当に。
(ひとりぼっちで寂しかったのかな…だから賑やかな学校が居心地よかった?)
得体のしれない不可思議なものを、このときはじめて郁は自分と同じ生き物のように認識した。そのとたん、恐怖はウソのように消えた。
「さあ、お行き」
瑞の声が導く。
「雨は、もうやんでる」
瑞の言葉に初めて気が付く。雨がやんで、雲の切れ間から月明かりが差し込んでいたことに。
淡く青白い光の中で、影はいっそう黒く深く見える。それでも。
「…どうぞ」
もう郁は怖くないのだった。ガラス戸を開け、外へと促す。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白