雨闇の声 探偵奇談1
嘘だろ、と囁く伊吹の声。信じられない思いだが、成り行きを見守るしかない。雨の教室、得体のしれない影と瑞。いまここに、存在を許されているのは、瑞だけ。そんな気がしてうすら寒くなる。
「雨、冷たかった?」
友だちに尋ねるような優しい口調だった。
「でもここに、きみの居場所はないんだ。ここは、生きている者の集う場所だから」
影は動かない。郁は雰囲気にのまれ、指先ひとつ動かせない。金縛りのように。伊吹も同じようで、微動だにしない。
(時間が止まっているみたい…)
相対する二つ。生きている者と、夜の者。。ただ、じっと向かいあっているだけ。対話ではない。しかし言葉以外の何かで、瑞は対話を試みているのかもしれなかった。
雨の音が遠くなる。闇がうごめくのをやめた。どれくらい時間が経ったのだろうか。
「おいで」
瑞が口を開き、金縛りがとける。久しぶりに呼吸をしたかのような、今まで夢でも見ていたかのような感覚。
瑞はベランダへ近づく。そしてガラス戸に手をかけた。
「一之瀬」
「……は、はい!」
ぼんやりしていて、返事が一瞬遅れてしまう。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白