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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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雨闇の声 探偵奇談1

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今にも振り出しそうな曇り空を見上げながら、郁(いく)は弓道場の鍵を取り出す。ごろごろと、低く唸るような音は雷だろう。天気予報では、降水確率80パーセント。間違いなく降ってくるだろう。重い雲のせいか今朝は薄暗い。

(よーし全部オッケー)

朝練後の片付け当番&戸締り終了。鍵を職員室に返せば、郁の今朝の仕事は終わる。スクールバッグを肩にかけて校舎のほうへ向かおうとしたとき、弓道場のほうへ歩いてくる人影が見えた。部員ではない。背の高い男子生徒だった。弓と矢筒を背負っている。

(誰?)

ミルクティー色の髪をしている。制服のネクタイは緑と青のストライプで、郁と同じ一年生のようだが、見覚えがない。

「あ、すんません。弓道部ってここですか」

声をかけられて一瞬固まる。透き通るように美しい瞳の男子生徒だった。見つめられて、瞬時に身体が動けなくなるほどに。

「荷物、置かせてもらっていいですか」
「えっ?」
「俺、今日から転校してきて…放課後から部活に参加したいんですけど」

転校生?ようやく思考回路が動き始め、郁は慌てて弓道場を指さす。

「あ、どうぞ」
「どーも」

鍵を再び開けて道具庫に案内する。手足が長く、姿勢が美しい。まとう雰囲気からも、なんだかただならぬものを感じ、イケメンというのはこういうひとを言うのかなあと、郁はぼんやりと彼の背中を見つめていた。

「ネクタイ一緒だから一年生だよね?何組?」
「わかんない。まだ担任とこ行ってないから」
「そっか。あたし4組の一之瀬(いちのせ)一之瀬郁。弓道部」
「俺は須丸瑞(すまるみず)。よろしく」

がたん、と唐突に硬い音が聞こえた。奥の方からだ。二人一緒に振り返る。

「…なに、今の」
「あ、たぶん女子更衣室の窓…立てつけ悪くて、よくガタガタ鳴ってるんだよね」

郁の言葉など耳に入っていないかのように、彼の視線はじっと音のする奥を見つめている。

(…なに?)

瑞の視線を向けられ怖気づいたかのように、それきり音は去った。しん、と沈黙が落ちる。

「ここ変だね」
「へっ?」
「もう行こう」

瑞がさっさと踵を返すのを、郁は慌てて追った。





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