雨闇の声 探偵奇談1
「…部活の時にも聞いたよね?今日、学校中でいっぱい変なことあったんだって」
「聞いたよ。俺らの教室の前も、なんかおかしなことになってたよな」
あれ、あたしのせいかも、と彼女は呟いた。街灯に照らされた横顔は青ざめている。
「あたし、昨日…教室にスマホ取りに行って、ベランダにいるあのひとのこと、呼んだの。戸を開けて、濡れるから入ったらって。あたしが中に入れちゃった気がするんだ…。だから学校で起きてるわけわかんないこと、もしかしたらあたしのせいかも。どーしよ、親呼ばれて退学になったら…」
親呼ばれて退学、のあたりで吹き出しそうになったが、郁の表情は今にも泣きだしそうなほどだった。真剣に追い詰められているのだろう。
「招き入れたってことになるのか。だから校内を、わけのわからんものが彷徨ってると」
「そう思うんだけど…」
「そのわけわからんものを、元通り外に出してやれば、騒ぎは収まるかな?」
そんなことできるの、と郁が顔を上げる。
「多分」
「だって相手はオバケかもしんないのに?怖くないの?」
そういうものを、怖いと思ったことはない。
どちらかといえば、幼いころから身近に、親しみを感じてきたものだからだ。
「殺人鬼相手にしたり、ストーカー相手にするほうがよっぽど怖いよ」
わけがわからん、という表情を浮かべている郁。
「事態は多分、一之瀬が考えてる通りだと思う。夜の中から招かれてやってきたものは、あるべき場所に帰ってもらえばいいんだ」
善は急げ、と昇降口に行きかけた瑞の腕を、郁が掴む。
「今から!?真っ暗だよ」
「明日になったら、たぶん校内びしょ濡れだよ。それに、もっと怖いことが起きる」
もっと怖いこと、と呟き、郁が凍り付いた。脅したつもりではなかったのだが。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白