雨闇の声 探偵奇談1
ざあざあと降る雨に、ローファーにまで水がしみてきそうだ。やっぱ長靴でも履いてくればよかったか。
「なー三年の教室にもさ、水たまりできてたってよ」
「なんか雨漏りじゃないかって、せんせーら点検してた」
「雨漏りじゃないよな、いきなり水たまりできたんだもんよ」
「足音聞いたしな」
学校で起きた不可思議な話題で持ちきりだ。瑞はそれに適当に相槌を打ちながら、今朝廊下で見たあの濡れた水の跡を思い出していた。あれは雨漏りなんかじゃない。
(先輩が言ってた。ここは古い土地だって)
そしてそれは時折影響を及ぼしてくるのだと。
ならばいま学校で起きている一連の不可思議な事件も、この場所に潜む人間ではない何かの仕業ということになる。
「学校の怪談的な?」
「レトロ―」
友人たちが快活に笑う。高校生にもなれば、当たり前の反応だろうと思う。しかし瑞は知っている。平和なごく普通の毎日の裏側に潜む影があることを。
「あ、須丸くん!」
正門を出たところで呼び止められた。
「一之瀬?」
一之瀬郁が、悲壮な顔をして立っていた。ビニール傘は役に立っておらず、彼女の肩のあたりはしっかりと濡れていた。
「どーしたの」
「懺悔を聞いてほしいんだけど…」
懺悔?
「一之瀬~おまえなにしたんだよー」
「うっさいなあー!あたしは真剣なんだってば!」
何事だろうか。大爆笑する友人らを先に帰らせて、雨よけに昇降口まで戻った。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白