雨闇の声 探偵奇談1
瑞に促され視線を落とす。
「…え?」
廊下の床に、点々と水たまりができている。それも泥も混じったものだ。小さな泥水が、まるで足跡のように白い廊下の向こうに続いている。だが、その足跡の主はいない。隣のクラスでも音を聞いたのか、数名が廊下を覗き込んでいるのが見えた。
「…誰か、歩いてたの?」
「みたいだ。姿は見えないけど」
授業が一時中断し、クラス中が騒然となる。教師が静かに、と呼びかけるが収まる気配はない。結局学年主任が飛んでくる事態となった。その間郁は、瑞の硬い表情が、じっと廊下を見つめているのを眺めていた。見えない何かを探ろうとするように、その目は鋭く冷たい視線を投げかけていた。
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作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白