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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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雨闇の声 探偵奇談1

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朝練を終え、一時間目の授業が始まる。静まり返った教室に、教師の読み上げる英文が流れていく。雨の音は遠く、けむる景色の向こうに街並みが見える。

(やばい眠い…)

郁はあくびを噛み殺し、必死に文字を目で追う。朝練の雑巾がけからの心地よい疲労がのしかかってくる。
文武両道を掲げるこの学校では、成績が悪かったり授業中の態度に問題があると、部活に影響がある。赤点をとると公式試合に出してもらえないというのは、どの運動部にも共通して存在する約束事だ。かといってテストだけいい点をとれば授業をさぼっていいのかといえばそうもいかない。素行はすべて顧問の耳や怖い先輩、憧れの宮川主将の耳にも届いてしまうのだ。

教室は今日もどこか薄暗い。郁は窓側の席から、ベランダを見た。

(…昨日の、何だったのかな)

ここに黒い影を見た。夜の闇にとけるような黒い影。雨の中に、確かに佇んでいた。

(須丸くんにも見えたのかな)

廊下側、前から三番目の席に座る瑞の背中を見る。彼もまた他の生徒と同じように、テキストに目を落としていた。

(神末先輩が言ってたっけ。ここは古い土地だって)

そこに得体のしれないものが宿っているというのだろうか。幽霊や妖怪といったものにはとんと縁のない郁だ。古い土地といわれてもピンとこないが、昨日見た漆黒の影が瞼にやきついて離れない。

あれは人間ではなかったのだろうか。