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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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雨闇の声 探偵奇談1

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膝が笑っている。声も上ずっていた。慌てて瑞を追いかけようとしたとき。

「わっ!」

ずるりと足をすべらせ、郁は慌ててそばにある机に手をついた。

「どうした」
「大丈夫、すべっただけ…」

言いかけて、郁は息を呑んだ。

「ねえ、床が濡れてる…」

教室の床が、ところどころ濡れている。水たまりを作っているのだ。非常灯の反射からそれを理解する。触れると冷たい。これは、雨水…?

「さっきは濡れてなかったぞ」
「な、なんで…」

まるで。

さきほどベランダにいた何かが、教室に入ってきたようではないか。ずぶ濡れのまま…。

「行こう」
「う、うん」

腕を引かれ、郁は瑞とともに駆ける。得体のしれない恐怖が背後から追いかけてくる。なんだろう、何かがおかしい。これはなんだろう、何が起こっているのだろう。

「…はあ、はあ」

昇降口まで戻ってくる。職員室の明かりが見えて、ようやく一息つくことができた。

「どうした?」

玄関口で、誰かに呼び止められた。

「神末先輩?」

神末伊吹だった。安堵から、郁の身体から力が抜けていく。へなへなと座り込んだ郁は、はあああと深く息を吐いた。

「おまえら鍵を返しにいったきり、戻ってこないから…」
「俺らを待っててくれたんですか?」
「何かあったのか」

脱力して話せない郁に変わって、瑞が静かな声で教室での出来事を告げた。動揺も、恐怖もない、淡々としたその声が、郁の気持ちを少しずつ落ち着かせていく。すべてを話し終える頃には、郁は立ち上がれるようになっていた。