雨闇の声 探偵奇談1
「ん?」
教室の窓の外はベランダになっている。そこに、人影が見えた。誰かが立っている。
「…誰?」
漆黒に、かろうじてヒト型が見えるのみだ。影は動かない。雨の中に佇んだまま。郁は声をかける。
「ねえ濡れるよ。入ってきたら?」
反応は、ない。ぴくりとも動かない誰か。ガラス戸に手をかける。鍵がかかっている。郁は錠を持ち上げて戸を開けた。
(あれっ…なんだろう…)
カラカラと戸をあけながら、何かが警鐘を鳴らす。違和感。なにか、おかしい。おかしくないか?不安が喉の奥からせり上がってきたそのとき。
「おい」
「わあ!」
背後から声をかけられ、郁は大きな声を出してしまった。振り返ると瑞が立っている。
「…いま、誰と喋ってた?」
「え?」
神妙な声色だった。ベランダを見る。誰もいない。影は消え、雨音だけがそこにある。
「いまここに、誰かいたの」
「雨降ってるベランダに?鍵かかってんのにどうやって外に出たんだと思う?」
硬い声で問われて、全身に鳥肌が走った。ここは二階だ。外から辿り着くこともできない。
「う、嘘」
「……」
慌てふためく郁に構わず、瑞が戸を閉めて錠をおろした。
「帰ろう。スマホあった?」
「う、うん」
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白