雨闇の声 探偵奇談1
職員室に鍵をかえし、無事にお役目は終わった。
「これで当番の仕事はおしまい。できそう?」
「ん、ありがと。付き合ってもらって」
「いいよ。お腹空いたし帰ろっか」
そこで郁ははたと気づく。いつもの癖でスカートのポケットに手を突っ込み、スマホを取り出そうとして、ないことに。
「あーっ!スマホ忘れてきたっ!」
「え、どこに?」
「たぶん教室…机にいれっぱかも…」
瑞が腕時計を見て、「六時五十分」と呟く。
「まだ十分ある。取りに行こう。一緒に行くから」
「うう、ごめん…」
「いいよ」
昇降口に引き返し、廊下を進む。すでに生徒の姿はなく、職員室の電気以外は消えている。教師に呼び止められるのも億劫だ。暗がりの中を二人で進んだ。
雨の音だけがあたりを包んでいる。ひんやりとした空気。上履きの音を殺しながら静かに歩く。
「あ、電話」
瑞の携スマホが振動した。
「すぐ取ってくる」
通話中の瑞を教室の外に残し、郁は中へ入った。真っ暗だ、非常口を示す明かりを頼りに自身の机へいき、中を手で探る。
「あったあった」
よかった。なんだかんだ言って、これがないと落ち着かない。さて帰ろうかと顔をあげたとき。
作品名:雨闇の声 探偵奇談1 作家名:ひなた眞白