慟哭の箱 12
ここまできたら、最後まで付き合うし、見届けてやりたい。責任感でも仕事でもなんでもない、単純にそれほどまでに情をうつしたということなのだと思う。
「篠塚芽衣がすべての罪を認めて、須賀くんのことについてはマスコミも警察も、被害者の息子として扱っているに留まっているって聞いたけれど…」
「はい、多重人格であるとか被害者の養子であったとか、そういったことは一切出ていません」
清瀬が伏せた。秋田にも必要以上のことは話さなかった。職務の規定に反していることは承知だが、清瀬は墓場まで持っていく覚悟を決めている。
「…あなたが、情報をそんなふうに操作したの?」
野上もいわば共犯なのだが、これはすべて清瀬の独断によるものである。
「俺が、須賀くんにそう言ったんです。黙ってろって」
芽衣の思いを、きみを守ってきた者たちの気持ちを、どうか汲んでほしいと。
罪は罪かもしれない。だが、それをあえて穿り出してかさぶたを剥がすような真似を、彼にさせることのほうが、清瀬にとっては罪だったのだ。
もういいだろう。もう苦しみではなく、楽しいことを、幸福なことだけを見つめて生きてもいいだろう。それくらい許されてもいいではないか。
「ずるい言い方をしました。他人に押し付けて忘れてしまえって、俺はそう言ったに等しいから」
「…そうかもしれない」
沈黙が落ちた。己の正義と旭らへの情の間でせめいでいた清瀬の思いは、今でも小さくさざ波のように揺らいでいる。この揺らぎはきっと、生涯消えることはないと知っている。
それでも、と清瀬は己の正義に問いかける。彼には幸福を生きる権利がある。それがどんなに汚れて傷だらけの身であったとしても。同じように傷を知る清瀬は、そういう正義を掲げていける。
両親が、自分を守ってくれたのと同じ理屈で。自分だけにできるやり方で。
「決意が固いのね」
「すみません。先生を巻き込む形になってますね」
「わたしは、」
一呼吸おいて、彼女は顔を上げた。
「わたしは、あの子たちを守るためなら」
飲み込んだ言葉の続きは、聞かずともわかる。清瀬はそれ以上の答えを求めなかった。