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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 12

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「嬉しいです」


噛みしめるようにつぶやく声が震えている。泣いているのかもしれないが、俯いた表情は見えなかった。

「…本当はきみが、気に病んでいることも知ってるんだ。篠塚さんのこと、両親のこと、すべて忘れることなんて、きっとできないだろうし、自分だけが幸せになんてなれないって、きっと苦しんでいると思う」

それは清瀬が卑怯な言葉で、旭の幸福だけを貪欲に望んだから。

「それでも俺は言う。これから先もずっと」

それが独りよがりなわがままでも構うものか。

「もう幸せになること以外、何もしなくていい」

清瀬が父にもらった言葉。暗い夜の底から救い上げてくれた言葉。

「苦しいときは、俺や野上さんが力になる。俺は逃げないから、きみも幸福になることから逃げるな」

頷く旭の肩を強く叩いた。それは励ましのつもりだったが、もしかしたらいらぬ圧力を与えたかもしれない。それでも清瀬は、繰り返し繰り返し、伝えていくだけだ。彼がそこで躓くたびに、立ち止まるたびに。


「…逃げません。だって、」


旭が顔をあげた。


「俺が逃げたら、清瀬さんもだめになる。そんなことさせない」


力強い声で言い切ってから、清瀬の顔を真正面から見る旭。自分と同じ強い決意があるのが、清瀬にはわかった。悩んで揺らいで、それでも俺は前を向いてる。そう訴えてくる強い視線だった。

作品名:慟哭の箱 12 作家名:ひなた眞白