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先輩

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「大和田先生とはなるべく関わらないように、それか担任の先生にも相談した方がいいかもしれない。ストーカーが大和田先生なのかは分からないけれど……確かにあの先生はちょっと変わってるからね。避けるというよりは、必要に近付いたりしないほうがいいという感じだ。
 原さんと美紀さんが何者かに被害にあった件については……とりあえず、犯人と思わしき相手が捕まるまでは、被害現場である団地前は通らないようにした方がいいね」
「分かりました」
「目撃者に聞いたところ、ストーカーの容姿は、そこまで背は高くなく、成人男性と比べると結構低い方らしい。コートは噂の通り真っ黒で、肩からひざ下までの長さがあり、頭はフードで被い、前のボタンは全部閉めている。顔については、目撃者は皆暗闇で遭遇するからはっきりと判別できないらしいが、どうやらマスクとサングラスのようなものでしっかりと隠されているようだ。顔全体を仮面のようなもので隠していた、と言う子もいた」
 仮面で顔を隠すなんて、自分があたかも悪者になったかのように格好つけてるだけじゃないか。そんなことをして何が楽しいのだろう。
「五人の生徒に聞いたんだけれど、ほとんどの人は目が合ったり姿を見たというだけで、何か被害にあった人はその中にはいなかった。ただ、一人だけ話しかけられたという子がいた」
「どんなこと、聞かれたんですか?」
 信号が赤になったので立ち止まり、私は馨先輩の方へ顔を向けて聞いた。
「恐怖ですぐに逃げたからほとんど覚えてはいなかったけど、唯一覚えているのは、何とかという名前の女の子がどこにいるか知らないか? といった事をひたすら繰り返し聞いてきた――らしい。これだけじゃ何のヒントにもならないと思うけれど……」
 女生徒を手当たり次第狙っているのではなく、ある一人の子だけをストーキングしようと企んでるってことか。
 ……大和田先生の夕闇に映る不気味な笑みを思い出した。
 まさか――。
 ストーカーが捜している子って、私のことなのか?
 と思ったが――、大和田先生は私のことなど、とっくのとうに知っているのだ。いちいちそんな格好をして下校途中の生徒に尋ねる必要はない。単なる私の自意識過剰な考えである。
「分かりました。しばらくの間は部活が終わったらすぐ帰るようにします」
 信号の色が青に変わったので二人は再び歩き出した。
 馨先輩は話を聞いて心配はしてくれたが、さほど驚いてはいなかった。まぁストーカーを目撃した生徒から色々と情報を仕入れていたのだし、そこまで不思議なこととは思わなかったのかもしれない。
 しかし、目撃した生徒五人というのは、きっと全員女子だろう。そうなると、最低でも馨先輩は私以外の五人の生徒と直接話したことになる。さらに、生徒に聞いてその子がかならずしもストーカーを目撃したとは限らない。ということは、五人ではすまないはずだ。もしかしたら、全員の女子に話を聞いている可能性だって――あり得なくはない話だ。
 そうなると、やっぱりリンが言っていた通り、ぐずぐずしている暇はないのかもしれない。
 だからと言って――すぐに告白できるような勇気は、私にはない。
「美紀さん――」
 馨先輩が、また私の下の名前を呼んでくれた。団地を避けて帰ることにしたので、今やっと家まであと半分くらいの距離にきた。
「付き合う、とはどういうことなのだろう……」
「……は?」
 名前を呼んでくれたことに喜んでいたから、何を聞いてくるのかまで考えてなかったため、まさかの質問に裏返った声で聞き返してしまった。なんだか小馬鹿にしてしまったんじゃないかと思って、なんとか早く質問に答えようと必死にしゃべった。
「つ、つきあうって、つまりあれですよね……友達とかじゃなくて、男女の付き合いですよね? 男女。恋愛。恋とか――そういう意味での付き合いですよね?」
 かなり混乱して話している。顔から本当に火が出そうだ。
 うん、そうだね、と馨先輩は頷きながら答えた。
「私――こないだ、リン、じゃなくて桃瀬さんの家で、少女漫画読んだんです。有名な。それによると、付き合うっていうのは……」
 ――待て。私が読んだ漫画(純情宣言!)内の登場人物たちは、お互いの気持ちを告白して、その後どうなっただろうか? 付き合おうと言ってからほとんどのカップルが、すぐに破廉恥なことや性行為をしているはずだ。……と言うことは、付き合うとは「好きな相手とそういう行為をする」という意味なのか……?
 いや、漫画だから――というのもあるだろう。しかしもし本当にその通りだとしたら、私の馨先輩への気持ちは全部……。
「あ〜〜! そうじゃなくてですね、あるじゃないですか! デート。いいですよねぇ。二人で手を繋いで歩いたりとか。二人で手を繋いで散歩したりとか、手を繋いで……走ったりとか」
「男女で手を繋いで、二人で歩けば、それは付き合っている、と呼べるのかな?」
 それは……そうとも言えるし、違うとも言える。
 付き合っていないのに、男女二人で出掛ける人もクラスにはいるし、手を繋ぐかは知らないが、仲の良い兄妹だったら手を繋いで出掛けるだろう。手を繋いでいるかいないかの違いというわけではないはずだ。
 こうなってしまった以上、知ったかぶりなどせずに正直に白状しよう。
「……すいません。私――恋愛をしたことがないんで……付き合うとか、そういうの全然分からないんです。私より、リン――桃瀬ちゃんの方が詳しいと思います」
 リンも付き合ったことがないと言っていたが、あんなに恋愛系の漫画や小説を読んでいるんだ。付き合うとはどういう事かぐらいならすぐに答えられるはずだ。
 そうか……、と馨先輩は言い、私から顔を背けて田んぼを見ながら歩いている。
 なんだか――悪い事をしてしまった気がする。
 もっと私から付き合うという事がどういうものなのか教えてもらえると思って、馨先輩は相談したのかもしれない。けれど、実際の私は付き合うことの「つ」の字も分からない恋愛常識知らずだったため、何の参考にならなかったことに落ち込んでしまったのだろうか。
 私が謝ろうとした、その時――。目の前に、いくつもの色が重なった光が見えた。
 私と馨先輩は立ち止まって、同時にその光へ振り向いた。暗い通りを歩いているので、電灯以外の光は目立つのだ。虹のように何色も重なった光は、止まっているわけではなく、私たちから見て横に動いているようだ。いったいあの光はなんなのだろう……?
 目を凝らして見てみると、どうやら誰かが持っている赤い傘の親骨の先に、電球がいくつもついているようだった。持ち主がくるくると傘を回すので、色が重なって見えるのだ。
 持ち主は逆光で陰になり、全く見えない。背はあまり高くないようだが……。
 まさか――ストーカーの正体か?
「あれは、僕らと同じ学校の子かな……?」
 馨先輩はそう言いながら、その傘を持った人に駆け足で近付いていった。
 同じ学校の子ということは、中学生なのか。それならストーカーの可能性は低いかもしれない。私も馨先輩の後についていき、七色に光る傘を持った少女へ近付いた。
 彼女が誰か判明したとき、私はまたともちゃんの時のような衝撃に駆られた。
作品名:先輩 作家名:みこと