先輩
リンがそんなに私の事を思っていてくれていたなんて。これから高校や大学に進学しても、離れ離れになってしまっても、ずっと親友でい続けたい。彼氏が出来たらダブルデートしたり、のろけ話を二人で沢山したい。
「美紀ちゃんがいてくれると、リンも落ちつくみたい。あの子、昔からあまり精神的に強い子じゃなくって……。でも美紀ちゃんと仲良くなってからはすごく元気な子になったのよ! ただ、美紀ちゃんが風邪引いたりして学校休んだりすると、一気に不安になっちゃうらしいのよぉ……。あ! だから具合悪くても学校に来て、なんて意味じゃないのよ! ただ、感謝してるのよ〜。 それを伝えたかったの」
「私も……リン、じゃなくて、林檎ちゃんと一緒じゃないと、不安なんです。だからお互い様だと思います。ただ、最近は隠しごとをしてしまっていて……それを今日全部うちあけに来たんですが――。ここ二三日、何か変なこと言ってませんでしたか?」
リンのお母さんはむしゃむしゃと勢いよく餌を食べるアップルを撫でながら、私に目を向けた。最初家に来たときとは明らかに表情が違う。リンが時々する真剣な顔にそっくりだった。
「そうねぇ……あんまり関係ないけれど、デンデンを最近よく使ってるわねぇ。誰かと話してるわけではないみたいだけど、なんだかカチカチカチカチやってるわぁ」
話している間にリンのお母さんの表情は、元のやわらかい笑顔に戻っていった。デンデンとは、恐らく携帯電話のことだろう。親子揃って不思議なネーミングセンスだ。
電話をしないで携帯をいじっているということは、リンは昔からゲームはまったくしない子なので、たぶんメールをしているのだろう。しかし、リンがそんな頻繁にメールをするような、仲の良い相手がいただろうか。親友である私とだって滅多にしないのに。
いったい、誰としているんだろう。なんだか胸がむずむずとした。
「みーちゃん、あの子の腕の傷、見たことある?」
リンのお母さんは再び真剣な眼差しを向けながら聞いていた。
「腕の傷……、猫に引っ掻かれた跡は着替えの時間によく見ますね。アップルって、そんなに凶暴なんですか?」
餌を食べている姿を見ている限り、そこまで野生的な凶暴猫には見えない。お腹も少しふっくらしているし、どちらかといえば、自分で獲物も獲れないような、ぐうたら猫に見える。
「いえ、そんなことないわ。ぷるぷるはとってもやさしい子よ〜」
ぷるぷることアップルの背中を撫でながら答えるリンのお母さんの声は、元気がないような、何か思い至ったことがあるような声だった。
帰り際に玄関で長話をするのも悪いと思ったので、
「じゃあ、ここらへんで失礼します。遅くまでお邪魔してすいませんでした! リンによろしく伝えておいてください」
「はいは〜い。夜道は危ないから気が気に気をつけて帰ってね〜〜〜」
そのまま私はリンの家を後にした。
今日の帰り道はいつも通り特に変わったことがなく、安心して家に着けた。
昨日は――いったいなんだったのだろう。
ともちゃんは何故あそこに立っていたのか。
ともちゃんが私に言おうとしたことはなんだったのか。
あの光は――、ともちゃんの悲鳴は――。
そしてあの場に現れたのは何者だったのか。
ともちゃんの行方は……。
来週の月曜日に、ともちゃんの姿を見られるかどうか、不安だ。
布団に入ったときにふとリンの寝顔を思い出して、ちょっとだけ胸が温かくなった。