先輩
馨先輩に肩を掴まれた時とは裏腹に、先生の手はゴツゴツと大きくて汗ばんだ手をしていて、掴まれているのが嫌で嫌でしょうがなかった。さっきの何倍もの吐き気が一気に私の喉に襲ってきた。
――目を合わせるのが怖い。恐怖に再び体が寒気に犯されていく。
力を緩めることなく、先生は肩を掴みながら私を見つめ続ける。
もう限界だった。
喉が熱くなり、胃の中のものが全部外へ出そうになった瞬間――黒板の上に設置されているスピーカーから、校内放送が流れた。
「――大和田先生、大和田先生。至急職員室まで来てください」
助かった。校内放送から流れる女性教師の声が、まるで天使の声のように聞こえた。
先生は、スピーカーに向けて見えているのかわからないぐらい目を細めて睨みつけた。私の肩から手を外し、教壇に置いてあるノートや出席簿等を急いで乱暴にまとめて持ち、
「じゃあ美紀君。来年、期待しているよ」
と言って、校舎全体が揺れるんじゃないかと思うくらい重たい足で音を立てながら、廊下を走っていった。
――結局、『生徒会長になってくれ』ということを言うためだけに、私を呼び出したのだろうか。そんな一言で終わるような事、授業が終わった後の休み時間でも言えるじゃないか。
そもそも、生徒会長なんてなったとしても、どうせ今年も合わせてここにはあと二年しかいないのだから、私にとっては別にどうでもいいことなのだ。
なんだか非常に疲れたので、その日は部活に出ずに帰った。時間も部活終わり十分前ぐらいだったし、先生に呼び出されたのが理由だから、サボリにはならないだろう。
夜になり、布団へ横になった時に、放課後の大和田先生とのやりとりを思い出して、恐怖で布団にくるまっているのに手足が死体のように冷たくなって、小刻みに震えていた。