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先輩

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 四月十五日――私が図書館に行き始めてから休日を除くと四日目になる月曜日。眠くてしょうがない目を擦りながら脱いだ靴を下駄箱に入れようとすると、小さく折りたたまれた白い紙が入っていた。
 誰からももらえるわけがないと分かっていながらも、一瞬ラブレターかと思ってしまった。誰かに見られたら恥ずかしいし、噂を流されそうなので急いで取ってポケットに仕舞い、そのまま靴を投げ入れて下駄箱から立ち去った。
 無性にその紙が気になるので、駆け足で教室に入って荷物を置き、トイレの個室に入った所でポケットから取り出した。乱暴に突っ込んでしまったので、角が少し曲がってしまった。
 それは小さく折りたたまれたノートの切れ端のようだった。わざわざ便箋を買って書いたわけではなく、授業で使うノートの一ページに書くところがガサツで男らしい。
 体が一気に熱くなり、一瞬馨先輩の顔が頭に浮かんだ。凡人の私なんかにくるわけがないのに、馨先輩からのラブレターなんじゃないかと期待してしまった。
 私はその手紙を丁寧にゆっくりと開いていき、青のボールペンで書かれた文章を読んだ。

 『初めまして。皆さんは知らないと思いますが、私は吹奏楽部の部長です。
 部長といっても、病院で入院しているため部活には参加できません。
 まだ病気が治りそうにないので、皆さんとは会えないけれど……文通仲間として部員であるあなたとお友達になりたいです。下に書かれたアドレスに名前を書いて送ってください。
****@***.**。**
 よろしくネっ♪    部長より  』

それはラブレターではなく、部長と名乗る人からの手紙だった。
正直――意味が分からなかった。
まず、部長は入院いていると文中には書いてあるが、それだったらこの手紙を下駄箱に入れるのは不可能ではだろうか。誰か友達に頼んで代わりに入れてもらう方法もあるが、リンが加藤先生に聞いた話によると、部長である女生徒はかなり重い病気らしく、先生ですら面会を許可されていないのだ。それでは誰にも頼むことは出来ないだろう。
 きっと誰かが仕込んだ単なる悪戯か、携帯の有料サイトなどの手口だ。期待していたのが馬鹿らしくなったので、私は手紙を破ってゴミ箱に捨て、教室へ戻った。
 とはいえ、よく考えてみれば、たとえばこの手紙が部員全員に届いていて、学校に通えないけど少しでも部長らしい仕事をしようと思い、一人ひとりの名前やパートだけでも覚えようとしているのであったら、まだ分かる気がしたし、同情もできた。
 だが、その線はすぐに消えた。
 Bクラスにいる部員に手紙のことをきくと、「そんなもの入ってなかった」と口を揃えて言った。唯一同じような手紙が入っていたと言ったのは、ともちゃんとリンの二人だけだった。さらに、部活が始まってBクラス以外の部員全員に聞くと、あけみとちーちゃんの二人にも届いていたらしい。
 何故、私たち五人だけに送られたのかは分からなかったが、これで悪戯や詐欺の線が大きくなった。どうやら吹奏楽部員というよりは、低音楽器でありKLDのメンバーである生徒だけに手紙が届けられたようだった。
 結局五人で考えた結果、この手紙の意味は詐欺か悪戯以外に、馨先輩が好きな人が私たちの他にいて、KLDに入れて欲しいか、何らかの理由でKLDに嫌がらせをするために、誰かわからないように手紙にアドレスだけ書いて、吹奏楽部員が気になっているであろう存在の部長と名乗った――という曖昧なカタチで片付けられた。
 もちろんその日までは、そんな結果では納得が出来ないような、はっきりしなかったことが気になってしょうがなかった。だが、次の日にはそんなことなんてどうでもよくなってしまうくらい、私にとってはすごい出来事が起きたのだ。

作品名:先輩 作家名:みこと