慟哭の箱 11
「あっ…おまえがタルヒだろ。失礼なやつだな」
「まあ、俺に害はないからどうでもいいけどねー」
タルヒはそう言って、意地悪く笑った。だらしなく椅子にかけると、ずるずると背中を沈ませ、目を伏せた。
「…俺はいつ死んでもいいって思っててさあ」
自殺願望があると、イシュが言っていたっけ。だから一弥におさえられ、顕在化できないと。
「でも俺一人の身体じゃないから、一弥には許してもらえなかったんだー」
「…今でも死にたいと思うのか」
「思うよ」
隙間から覗く死んだように濁った瞳。それが清瀬を縫いとめるようにして捕えた。
「それって悪いこと?」
「……」
「死にたいって思うやつを叱ったり諭したりする権利なんて、誰にもないよねえ」
命はだって、自分だけのものだもの。彼はそう言って続ける。
「でも一弥はあんたに言ったんだな。生きたい、って。生きたいって思ってるやつらの中で俺一人が死にたいって言っても無理だよねえ。あんたさあ、俺が殺してって頼めば殺してくれんのかなあ。旭や涼太の願いを叶えたのに、俺だけに優しくないってそれってどうよ」
うかがうような目つきは、清瀬に対する不平や不満の色を含んでいる。
「…殺せない。おまえの望みは叶えない」
「ひっどくない?差別?」
「幸福は、生きている先にあるものだ。死んでしまえば、もう二度と手にできない」
清瀬の答えを聞き、タルヒは失望したというようにため息をついた。