慟哭の箱 11
「ほら行こう。涼太」
涼太?どこに、と立ち上がりかけた清瀬の視界が、何か温かなものでふさがれた。
「だーれだ!」
無邪気な子どもの声。小さな手の柔らかな感触。
「涼太か?」
「ぴんぽーん!」
嬉しそうなその響きに、清瀬の顔もほころぶ。元気そうだ。よかった。
「おまわりさん、またね!」
「うん」
温かな手が離れていく。再び一人になった空間に、ぺたぺたという足音が響いた。誰か来る。スポットの中に、ぬっと現れたその人物は。
「……」
黒髪を無造作に伸ばした陰気そうな若者だった。真尋と対面したあとだから余計にそう感じるのだろうか。裸足だった。汚れたカーゴパンツからむき出しの脛には、いくつも傷跡がある。同じくしわくちゃのTシャツから覗く病的なまでに細い腕も傷だらけだ。手首には、おそらく自傷行為の跡。
「きみは、」
「ふーん…」
長い前髪の隙間からじいっと清瀬の顔を覗き込んでから彼は、はあ~っと大仰にため息をついてみせた。
「あんたって本当にばかなんだねェ…自分が痛い目見てさ。何か得するわけでもないのに」
そして、小ばかにしたように、ニヤニヤと笑う。