慟哭の箱 11
「過去を完全に断ち切れたとは思わないけど、それでも…あの男が逮捕されて、これが一つの区切りだと思えるんだ。旭にとっては、ここからが戦いだと思うけど」
「そうか…」
「旭にも司直の手は伸びるよ。両親殺害の実行犯は芽衣だけど、計画をたてたのは一弥だから。どういう罪に問われるかは俺にはわからないけどね」
多重人格が、裁判においてどのような作用をもたらすかなど、清瀬だって知らない。だけどただひとつ言えるのは。
「きみたちは全員が被害者だ」
生きるために、こうするしかなかった。心を壊して、箱の中に封じてしまうしか。
「…刑事さん」
「なんだ?」
「言ってくれたよね、一弥に。帰っておいでって」
「言った」
じっと見つめてくる瞳の中には、まだ虚無の色が見える。恐れ、猜疑心。
「…あれ、信じてい?」
約束したのだ。この約束が、彼らにとってどれだけ大きな意味をもつか、もう清瀬は知っている。だから。
「いいよ」
向けられる真摯な思いが、深い傷の中から生まれたものであるから。二度と悲しませてはいけない。裏切ってはいけない。それはもう、かかわった清瀬の義務だ。義務であり、権利である。
「じゃあ、先に行って待ってる」
真尋はそう言って立ち上がる。