慟哭の箱 11
うとうとして心地よい。何だかどっと疲れが押し寄せてきて、清瀬は目を閉じている。ああ寝てはいけない。たぶんまだ勤務中なのに。だけど、疲労と安堵で、緊張感がぶっつり切れてしまったようだ。指先までどろりととろけるよう。
(ここどこだろう…)
夢を見ているのだなとわかる。ここは旭の心の中か?以前、旭が話していたのを覚えている。たくさんの椅子が、中央に座っている自分を囲んでいる。どの椅子も空席だった。
「あ、いたいた!」
ひとりぼっちの清瀬の前に、まず現れたのは茶髪の若者だった。少し猫背気味。愛嬌のある顔立ち。初めて見るのに、ああなんだ、真尋か、と清瀬にはわかる。何だか久しぶりに声を聴いたような気がする。懐かしいと思う。
「刑事さん無茶したねえ。結構痛いっしょ?」
自分の手のひらを指し、真尋が笑う。少し垂れ気味の瞳のせいか、子どもっぽい仕草だった。
怪我、ああ忘れていた。そうだ。一弥をとめるときに。ハンカチの下にじわじわと痛みはあるが、気にならない程度のものだ。
「大したことないよ」
「ならいいけど」
清瀬の向かいの椅子に座り、真尋は組んだ足の上に肘をついた。何事か思案するように目を閉じてから、やがて彼は小さな声で紡いだ。
「…アリガトね」
「うん?」
「世話になったなあって」
らしくないなあ、と清瀬は吹き出す。
「ひとがお礼言ってんのに、笑い飛ばすとかひどくない?」
口を尖らせてから、真尋は真顔に戻る。