慟哭の箱 11
帰還
頭の中で、ずっと誰かがしゃべっているのを聞いている。子どもの声、男の声、女の声。そして、聴きたかった優しいあのひとの声。ざわめきの中、旭の耳ははっきりと捉えられる。
清瀬の声を。その響きの柔らかさを。
「…あれ、」
うっすらと目を開く。白い天井が見えた。差し込んでくる光の眩しさを手で遮る。そんな行動さえ、ひどく身体がだるくてつらい。全身が泥のように重たかった。
「須賀くん!」
聞きおぼえのある声とともに視界を塞がれる。抱き付いてきた白衣。甘い香り。戻ってきたんだ、と実感する。
「野上先生…」
「よかった…心配したのよ、どうして黙っていなくなるの…」
「すみません…」
心配をかけたんだな、とまた一つ心が重くなる。同時に嬉しかった。待っていてくれたひとがいたことが。ちゃんと帰る場所があることが。
「…清瀬さん」
清瀬もいた。旭の手を握っている。手に巻かれた包帯に目が行き、ああ、俺が傷つけたんだ、と思い出す。しかし清瀬はいつものように静かに微笑んでいた。それがどれだけ旭を安堵させるか、彼は知っているのだろうか。
「さっきまで…清瀬さんが、いた…」
「うん?」
「俺の心の中に。ねえ、いたでしょう?」
突拍子もないことを口走ったのに、清瀬は不審がることもなく、うなずいた。
「みんなと話をしたよ。真尋たちと」
「…やっぱりだ、俺、聞いてたんですよ…」
声がずっと聞こえていた。片方の手が、温かくて、清瀬がずっと握ってくれていたのだとわかった。