慟哭の箱 11
「一弥」
名前を呼ばれたその瞬間、そこはもう暗い映画館ではなかった。
いつか、清瀬の部屋でこっそり見た、満天の星空の写真。それと同じだった。飲み込まれてしまいそうな星空。見たことのない星座。流れ星がすべっては消えていく。足元もまた、瞬く星々が埋め尽くしている。
箱の外の、美しい世界。このひとと見る世界。
「一弥」
星空の下に、もう過去の残骸はない。清瀬がいて、優しい風が吹いている。夜の匂いがするだけ。
「帰ろうか」
帰れる。
帰れるんだ。
帰る場所が、あるんだ。箱の外にも。
言葉にならない思いをこめて手を握り返す。星が流れる。
目を瞑っても星空が見えていた。
もう寒さも痛みも感じない。
ぬくもりだけだった。
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