慟哭の箱 11
「消えないよ。今度は、きみの番」
優しい声は続ける。
「この暗い場所を出て、光を浴びる番」
光。
「生きていいと言ってくれたひとがいるだろう?」
絶対叶える――。
耳の奥に蘇る声。あのとき、確かに一弥は聞いた。あれは、そうだ。あのひとだ。
「ほら、もう」
そこにいるよ。
声に導かれて顔を上げる。一弥の隣に、清瀬が立っていた。こちらを見つめて、優しく笑っている。
「行くんだ」
背後の声がつぶやく。
ガコンと天井が音をたてて動く。がらがらと音を立てて、崩れていく壁。壁の向こうから、夜がやってくる。美しい濃紺が、じわじわとあたりを包んでいく。
「箱が、開くよ」
清瀬が言った。差し伸べられた手を、一弥は恐る恐る握った。温かな手。どうしてこんなところにいるんだろう、今更ながら一弥は思う。こんな、心の奥底の、絶対的に隠された場所まで、清瀬は入りこんできた。
強く握り返す。夢でも、幻でも、もう何でもいい。
ずっと逃げ出せなかったこの場所。逃げることさえ怖くて、役目を放棄することもできなかった。
このひととならば、俺はここから出られる。