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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 11

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「一弥、きみはもうここを出ていいんだよ」

背後の声が優しく続ける。

「きみだけが、この部屋に引き込まれていた。長い間。きみの役目はこれを忘れないことだった。痛みと屈辱と憎しみと怒りを。ここはそのためだけの場所。きみを苦しめるためだけに存在した部屋」

そう。それが一弥の役目。
怒りと憎しみをつかさどる。その感情を枯渇させないために、繰り返し思い出すために。

「…もう、終わる…?」

かすれた声で紡ぐと、終わるんだよと、背後の声は労わるように言った。

「もう終わるんだ。きみの意思で終わらせることができる」
「ウソだ、だって…」
「ウソじゃない。思い出して」

囁くような声なのに、確信を持ったように強い声だった。

「約束したでしょう、あのひとと」

あのひと。約束…。

「僕らには役目があった。一人ひとりが、役目を持って生まれてきた」

声はじんわりと温度を帯びているようで、それはとても温かいものに思える。身体の奥から」響いてくるような錯覚。

「雨のように降る悲しみを、痛みを、苦しみを、きみがその背中にすべて負ってくれたから、旭は生きてこられた」

そう。それが一弥が生まれた理由。旭を守る。旭を生かす。

「でももう、旭は大丈夫」
「…大丈夫、」
「うん。もう、何も知らずに守られている子どもじゃない」

ああ、そうだ。旭はもう、痛みを取り戻し、自分の足で歩こうとしている。

「俺の役目は…もう終わるんだな」

そして、静かに消えていく。

作品名:慟哭の箱 11 作家名:ひなた眞白