慟哭の箱 11
再生
そこは朽ち果てた映画館のようだった。薄暗い。そして寒い場所だった。ざらりと砂だらけの席に腰掛け、一弥は一人、巨大なスクリーンを見上げている。
上映されているのは、幼い自分が繰り返し嬲られる場面だった。何度、ここでこうしてこれを見ただろう。
助けて、とスクリーンの中の自分が叫んでいる。
殺してやる、と泣きわめいている。
ごめんなさい、と許しを乞うている。
だけどそれは過ぎ去った過去の映像で、助けてやることも一緒に泣いてやることもできない。そのくせ、忘れることもできず、気が付けばこうして上映されている。無力な己を思い知る。
(…何度、見たかな)
痛みは、このスクリーンに繰り返し映し出された。忘れるな、とでも言うように。
席を立てない。目を逸らせない。絶叫が響きわたるのに、耳も塞げずにいる。
一人きりの世界で繰り返し再生される過去は、一弥の心を壊すには十分だった。すべてを終わらせるそのために、両親と武長を殺す計画をたてた。
(…芽衣を巻き込んだ)
彼女の罪悪感につけこんで共犯にしたてあげたという自覚が、一弥にはあった。
旭の大切なひとを巻き込んで、それでも復讐を成し遂げることにこだわった。そうしなければ、自分は、そして旭は、これ以上生きてはいけないと思った。
あいつらが死ねば、もうこんなものを見なくて済む。思い出さなくて済む。そう思っていた。
(だが俺は、結果旭と芽衣を苦しめただけだった…)
では、どうするのが正解だったのだろう。
どうすれば救われた?止められた?
一弥にはもうわからない。
「もういいよ」
背後からそっと目隠しをされた。冷たい手だった。聞き覚えのある声。これは、旭の中に潜んでいたゼロ番目の人格…。
「もう終わったんだ。見なくていい。聞かなくていい」
静かに外される手。再び見上げるスクリーンには、もう何も映り込んでいなかった。音も消えている。