慟哭の箱 10
高速道路のインターで、携帯が鳴る。沢木だ。清瀬は片手で携帯を操り通話ボタンを押す。
「沢木か、どうだ」
『はい、K県警に連絡をとって武長の家へ向かわせたところ、本人は留守とのことです』
「留守…?」
いない?
会社にも立ち寄ってはいないし、家族も行方を知らないという。夜の間に行先も告げずに出ていったらしい。
(まさか一弥が?)
須賀夫妻は、一弥と芽衣に呼び出されて殺されている。一弥は、旭は、何をする気だ。対峙しているというのか?
「俺は須賀旭の実家に向かう」
『了解です。こちらもすぐに向かいますから!無茶はしないで下さいよ!』
ノートに書かれた一言だけが、いまの清瀬を突き動かしている。どうか間に合え、早まった真似はしないでくれと祈る。こんな別れ方、絶対に受け入れられない。
(戻ってこい)
もう一度、みんなで温かい食卓を囲んで、バカな話をして、家族みたいに過ごすのだ。それが本当の家族ではなくても、それでいいのだ。清瀬が、清瀬巽として生まれ変わったように、同じ時間を共有することで、ぬくもりをわけあうことで、静かに心を解け合わせていけばいい。
彼らが生きたいと願うなら、それを絶対に叶えたい。叶えてやりたい。今度こそ。
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