慟哭の箱 10
同化
夜明け間近に鳴る電話は、不吉な予感を連れてくる。診察室のソファーに横たわっていた野上は、テーブルの携帯を掴んで目をこする。まだ五時を過ぎたところではないか…。
「…清瀬さん?どうしたの?」
『須賀くんがそちらに行っていませんか?』
いつも眠そうで抑揚のない声に緊張が混じっている。ただごとではないと、野上は瞬時に悟った。
「ここには来ていないけど…どうしたの?」
『いなくなった』
いなくなった…?
「な、なんでですか」
『わからない。篠塚芽衣の逮捕で昨夜だいぶ参っていたから…なにか衝動的な行動にでそうで』
清瀬の声が緊迫している。なにか嫌な予感を抱いているのだ。
『そっちにきたらすぐに連絡をください』
それだけ言って、清瀬は通話を切った。ざわざわと胸が鳴る。なぜ、どうして彼は消えたのだ。
「まさか、武長のところじゃないでしょうね…」
記憶を取り戻した旭が、そしてそれに影響された人格たちがどんな行動に出るか。それは予測もつかない。
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