慟哭の箱 10
そして彼は、意外に読書家だった。
清瀬さんの部屋には大きな本棚があって、漫画や小説はないけど、経済がどうとか、法律がどうとか、そういう難しい本が並んでいたのを覚えている。真尋はツマンナイって残念がっていたけど、僕には興味深い本棚だった。
法医学や統計のたぐいも多かったけど、犯罪被害者の本とか、善悪を論じた本とか、そういったものもたくさんあった。
今思えばあのひともずっと苦しんできたんだ。
知識に没頭して、そこに光を見出そうとしていたのかな。
意外だったのは、そんな難しい本に混じって、綺麗な写真集がたくさんあったこと。世界の絶景だとか、街角の猫たちだとか、奇跡のサンゴ礁なんていうものも。呑気なものから壮大なものまで。美しいものに心を癒されるタイプには思えなかったから意外だったといえば、あのひと笑うかな。
星や空の写真集が特に多かった。宇宙から見た地球。海上に広がる星空。星座の本。オーロラ探訪。雲。どこまでも続く青空。
清瀬さんは、まがいものの美しい風景の中に、何を見出そうとしていたんだと思う?
救いを?癒しを?
旭はどう思う?
真尋には難しいか。
涼太は、一緒に見ながらきれいだねって笑ってたな。
女性である氷雨になら、僕らにはない細やかな感情がわかったりするかもね。
タルヒは興味ないかな。
一弥はどう?