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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 10

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「帰っておいで、一弥、」

清瀬が、傷のないほうの手で一弥を抱き込んだ。強い力だった。痛い。温かい。動けない。声が出ない。どうしていいか、わからない。

「うちに帰っておいで」

魔法のように、胸の奥の痛みや苦しみが消えていく。

「おまえはなんにも悪くないんだから」

優しい声。ずっと聞きたかった言葉。身体の中に重く淀んでいた澱がとけだして、指先から流れ落ちていくような感覚。

「痛かっただろ。怖かっただろ。つらかったろ…あのとき、助けにいってやれなくて、ごめんな」

いつかの夜に、一弥は清瀬を責めた。どうして助けに来なかったのと。それは清瀬のせいではない。誰にも、どうしようもなかったことなのだ。それなのに、怒りにまかせて飛び出した一弥の言葉を、清瀬は真正面から受け止めてくれていたのだ。

「今度こそ、助けに来たぞ」
「…お、俺は…殺さないと、あいつ、あいつを…!」

抱き込まれる力が強くなる。息ができないくらいに、強い力。清瀬の心臓の音が、聞こえる。もうしゃべるな、と言われている気がした。

「だめ。おまえはこの先もう、一つだって罪を重ねちゃいけない…幸せになるために。そのためなら…俺は何度だって切っ先を握って止めてやる」

何度でもだ。念を押すように言う清瀬。身体を離され見上げると、いつもみたいに呑気に笑っているのが見えた。

「清瀬さーん?どうしましたー?」
「何もない。今行くよ」

ハンカチで手をぐるぐるまきにしながら、清瀬は外から響く沢木に答える。そして内緒だというように、人差し指をたてて笑った。

作品名:慟哭の箱 10 作家名:ひなた眞白