慟哭の箱 10
これは、一弥の意思だ。出てくるな、と念じてももう遅い。
ころす。殺す!!おまえは絶対に殺す!!!ここで終わらせてやる!!!
(一弥…ッ!)
感情が溢れてくる。抑えきれない!絶叫とともに、一弥は落ちていたナイフを片手に、地面を蹴って駆けた。
許さない!!ここでおまえを殺してやる!!
ここで、ここで全部清算するんだ!!!
「っ…!」
武長に突進した一弥だったが、強い力で全身を止められる。
「…は?」
一弥は顔をあげる。清瀬に抱き留められていた。温かいものが両手をべたっと濡らしていく。清瀬が抜身のナイフの刀身を握りしめ、顔をしかめている。
「き…よせ、さん」
「いてて…」
膝を折ってくずおれた清瀬とともに、一弥もまた膝をついた。ナイフが力なく床に落ちて、カランと高い音を立てる。
どうして…。どうしてあんたが血を流しているんだ。
戦慄く一弥の手に、清瀬の手が重なった。落ち着け、というように。
「あんた…何を…」
「そんな青い顔するなって。こんなのはかすり傷なんだから」
清瀬の声は、いつもの穏やかで気の抜けた笑い声だった。安堵なのか衝撃なのか、全身の力が抜けていく。項垂れた一弥の耳元に、優しい声が降る。
「もう大丈夫だ。終わったんだよ」
「……なに、を」