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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 10

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「……」

何か言わなくては。伝えなくては。そう思うのに、言葉にならない。行こう、と促され立ち上がる。足はもう震えてはいない。手も。何だか視界が広くて明るい。かすみがかっていた風景が一変している錯覚。まぶしい。一弥は目をすがめ、穏やかに笑う清瀬を見た。

「なあ、ノートに書いてくれたろ」
「…え、」

旭らの交換日記のことだ。

「あれを読んで、ここに駆け付けたんだ」

あれは、と一弥は口ごもる。あれをどういう心境で、なぜ書こうと思ったかは、はっきりとは思い出せないのだ。だけど確かに書いた。目の前の、このひとに向けて。

「おまえの口から、聴きたい」

言って、と清瀬が促す。伝えたい。言わなくちゃいけない。乾いた唇を必死で開く。


「清瀬、さん…」


名前を呼んだら、涙が零れた。ようやく流せた涙だった。


「い、生きたい…俺は、生きたい…です、」


うん、と優しい相槌。


「絶対叶える」


その約束を違えることはない。そう誓うように、清瀬はまっすぐに一弥を見つめている。


――ああ、これでもう大丈夫だ…


瞑目すると、急速に意識が薄れていく。


もう大丈夫だ。


ようやく、生きることを、許された。


身体中から力がぬけて、一弥の意識は心の海に沈んでいく。



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作品名:慟哭の箱 10 作家名:ひなた眞白