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反骨のアパシー

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 午後は特殊浴槽で入浴する利用者の研修だった。栄太郎が担当する稲田もそのメンバーに含まれていた。野菊園には特殊浴槽が一箇所しかなく、各寮から利用者が待機していた。
 そこでまた、栄太郎は愕然とした。職員たちは廊下で利用者の服を脱がせ始めたのだ。車椅子に乗っている利用者は次々に裸にされていく。そして、入浴の順番を待つのだ。
 それと同じような光景を、栄太郎は生活保護の地区担当員をしていた頃、眼にしたことがある。それは地方の病院に長期入院している受給者の主治医に病状を聞きに行ったときのことだ。その病院は一部屋に十人以上も詰め込み、風呂の時間になると、やはり患者を裸で車椅子に乗せ、待機させていた。その時、栄太郎はその病院が野戦病院のように思えたものである。
 それとまさに同じ光景が、目の前で繰り広げられていた。
(これを俺がやるってことは、俺もあの病院と同じことをするのか……)
 栄太郎の中に「罪」の意識が広がっていた。栄太郎には次の転勤まで、心のバランスを保てる自信が、この時ばかりはなさそうだと感じていた。

 栄太郎がこの野菊園に赴任して二週間が経とうとしていた。栄太郎はまだ野菊園の気風に馴染めずにいた。それでも、仕事はやるしかなかった。不本意ながら利用者の食事をグチャ混ぜにしたこともあった。特殊浴槽の前の廊下で利用者を裸にしたこともあった。
(申し訳ない……)
 そんな時は、いつも心の中で、そう呟いている栄太郎だった。
 ある職員は担当の利用者をえこひいきする様に可愛がり、また、ある職員は面白半分で利用者をからかいの対象としていた。そのいずれも栄太郎には馴染めなかった。
 横内という利用者がいる。自閉的傾向が強く、ちょっと小太りなのだ。その利用者は毎日、減量という目的で野菊園の外周を十周も走らされていた上に、スクワットや腹筋を五十回以上もやらされていた。そんなプログラムがまかり通ること自体、栄太郎には嫌悪すべきことであった。横内は必死に走り、スクワットや腹筋をする。確かな減量の根拠もなく、職員の偏った考えでプログラムが決められている気がしてならなかった。
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸