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反骨のアパシー

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 田上は栄太郎にそう言うと、稲田のズボンを一気に下げた。その下には厳重に巻かれたオムツカバーがあった。栄太郎は田上と協力してオムツカバーを外す。すると布オムツの下に紙オムツをしていた。更にその下には紙パッドが装着され、ペニスの周りには紙パッドが厳重に巻かれていた。
「これだけしないと、漏れるんだよ」
 田上が笑いながら言った。ペニスを包む紙パッドは尿を含んで重くなっていた。田上は手際よく紙パッドを交換する。
「これ、トイレの中のポリバケツに捨てておいて」
 尿をたっぷりと含んだ紙パッドが栄太郎の手に渡された。
「オムツ交換ができるようになれば、一人前の施設職員だよ。我々はどんなオムツの当て方が良いか、日夜研究しているんだ」
 田上は笑っていた。栄太郎は掌で紙パッドの重さを感じていた。
 栄太郎はそれを捨てようとトイレに向かい、ポリバケツの蓋を開けた。するとツンと鼻先を掠める悪臭が臭った。そこには詰め込まれた紙パッド、紙オムツがひしめきあっていたのである。便の臭いもする。栄太郎は思わず顔をしかめた。だが、これが現場の日常業務であると思うと、甘いことは言っていられなかった。栄太郎は紙パッドをポリバケツの中へ詰め込んだ。
 栄太郎は入念に手を洗った。尿の臭いが手にこびり付いているような錯覚に捉われたのだ。

 午前九時から研修は始まった。原口園長の挨拶から始まり、支援部長の浅田が野菊園の概要について説明する。
「えー、この市立野菊園は昭和四十五年に開園しまして、今では民間施設で受け手がないような、重度の知的障害者の拠点施設として機能しております。利用者の皆様には快適に生活していただけるよう常に人権問題に積極的に取り組み、施設の発展・改善に取り組んで参りました。とりわけノーマライゼーション、すなわち障害の有無に関わらず当たり前の生活が送れるよう、日夜努力しているところであります」
 栄太郎は昨日の食事場面を思い返していた。グチャグチャに混ぜられ、あたかも飼料のようになった食事である。それは浅田部長の言うノーマライゼーションの理念からは程遠いように思われた。
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸