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反骨のアパシー

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 高橋係長がお猪口をグイと煽った。栄太郎が酒を注ぐ。
「おう、この立山、美味いな」
「で、いつ民営化になるんですか」
「来年度初旬には民営化するつもりらしい。愛向会もその心積もりでいるらしいよ。早ければ一、二ヶ月のうちに愛向会の職員を派遣する話も浮上している」
「園長以下、幹部職員は誰も民営化のことを口にしていませんよ」
「そりゃあ、話したら労働組合が黙っちゃいないだろう。こういうのはトップダウンで行われるんだよ」
「なるほど……」
「まあ、それでもそろそろ民営化の話を職員にしないとまずい時期だろうな」
 高橋係長が焼き鳥を咥えて、面白がるように言った。栄太郎も「くくっ」と笑う。
「それにしても、今日の福祉総務室は大変だったらしいぞ。秘書課に保護者が行ったんだって?」
「あれ、私が焚き付けたんですよ」
 今度は高橋係長が「くくっ」と笑った。
「それにしても、愛向会の職員が来て野菊園の中を見たらビックリするでしょうね」
「だろうなぁ。まあ、あんな使い勝手の悪い施設をいつまでも市で抱えていることはないよ。どうせ職員たちは自分たちの進退が気になっているだけだろう」
「そうでしょうね」
「北島は心配するなよ。俺が課長に話を付けて、生活福祉課に戻すからな」
「ありがとうございます」
 栄太郎が高橋係長に酒を注いだ。

 その日。野菊園の中はパニック状態となっていた。ついに原口園長から野菊園の民営化の話が職員たちに告げられたのだ。
 すぐに労働組合は立ち上がり、「民営化反対」と叫びながら労使交渉を行ったが、福祉総務室は「市の役割は終わった。重度障害者でも民間で受け入れてもらえる」と突っぱねたのだった。
「俺たちの身分、どうなるのかな?」
「なーに、公務員は簡単に首を切られないさ。どこかに異動になるだけだ」
 そんな会話がどこそこで聞こえるようになった。
 栄太郎は施設しか経験のない職員の使い道が果たしてあるのかどうか疑問だった。
 そんなやるせない雰囲気に包まれた野菊園に、愛向会の職員たちがやってきた。民営化前の視察である。愛向会の職員たちは野菊園の中を見て回った。
 梅寮に彼らが来たのは、丁度昼食の時間だった。原口園長と浅田支援部長に付き添われ、食堂に来たのだ。
「何だ、この飯は……!」
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸