反骨のアパシー
(外部からクレームを入れられるなんて、福祉事務所以来だな……)
そんなことを思う栄太郎であった。
「北島さん、外線ですよ」
配膳室で洗い物をしていた栄太郎に声がかかった。栄太郎はサッと手を拭くと、職員室に向かった。
電話の主は高橋係長だった。
「おい、野菊園で探している横内さんらしき人が、隣の持立市で保護されているぞ」
「え?」
「始末が悪いことに精神病院に入院している。『持立太郎』という名前で生活保護も決定している。医療費の絡みでも大変なことになるぞ」
「ありがとうございます」
取敢えずは横内が無事でいてくれて、ホッとした栄太郎であった。だが、栄太郎はすぐに医療費をめぐるトラブルが起こることを覚悟していた。だが、それは栄太郎の心配することではない。原口園長や浅田支援部長が心配すべきことであった。栄太郎はすぐさま、園長室に駆け込んだ。
やはり医療費の問題ではその精神病院と揉めることとなった。病院側は既に医療費の請求をしていて、今更、国民健康保険には戻せないと難色を示してきたのだ。病院が福祉事務所に請求した金額は百万円以上にも上る。
「それはないでしょう。筋は筋ですよ。過誤調整をしてもらいますから」
浅田支援部長の高圧的とも取れるその一言に、病院は猛烈に反発した。持立市の医師会を通じ、野菊園にクレームを入れてきたのだ。病院は過誤調整を行うならば、生活保護法の指定医療機関を廃止するとまで言い出した。もはや、野菊園と病院だけの問題ではなかった。当然のことながら、持立市の福祉事務所からも過誤調整が困難であるとのクレームが入っていた。栄太郎の心配した通りの筋書きとなったのだ。
原口園長も浅田支援部長も頭を抱えていた。
「やはり、生活保護の返還金に応じるしかないか。百万円か……」
そんな声が幹部職員たちの間で囁かれていた。
「園長を出せ! 園長を!」
そう叫んで怒鳴り込んできたのは、横内の父親だった。
「息子が保護されていた間の返還金を、障害年金から出せとはどういうことだ。これは野菊園の落ち度なんだぞ!」
横内の父親は烈火のごとく怒り、興奮していた。それを浅田支援部長が「まあまあ」となだめる。しかし、横内の父親の怒りは収まらない。
「お前じゃ話にならないんだよ。最高責任者の園長を出せ!」
「このことは寮の担当の北島さんが担当しているので……」